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zoom RSS 日常系アニメの壁

<<   作成日時 : 2012/01/02 18:39   >>

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『けいおん!』という作品のファンと否定派の主張を聞いていると、「中身のないただただお茶をしているアニメ」という否定派の主張と、「感動のあるアニメ」というファンの意見は「本当に同じアニメを見ているのか?」と言うくらいに意見が違うことに気がつかされます。例えば、『ガンダムSEED』いや、ガンダムシリーズの新作のアンチファンというのは「つまらない」だの「駄作だ」と言いつつ、本当に良く作品を観察して、作品の穴をそれこそ重箱の隅をつつくように見ていた、いわば「ツンデレ」のような気質を持っていたことは良く知られているが、『けいおん!』のそれは「中身がない」と決めつけてて、そこまで作品への愛情というのを全く感じないのです。

この違いを解き明かすヒントとして、養老孟司の『バカの壁』の冒頭にこういう記述があります。

…イギリスのBBC放送が製作した、ある主婦の妊娠から出産までを詳細に追ったドキュメンタリー番組を、北里大学薬学部の学生に見せたときのことです。…ビデオを見た女子学生のほとんどは「大変勉強になりました。新しい発見が沢山ありました」という感想でした。
一方、それに対して、男子学生は皆一様に「こんな事はすでに保健の授業で知っているようなことばかりだ」という答え。同じものを見ても正反対といってもよいくらいの違いが出てきたのです。

バカの壁 養老孟司・著 新潮社より

著者はこの違いは偏差値的な知的レベルではなく「与えられた情報への姿勢の問題である」と看破し、出産というイベントに当事者としての意識を持っている女子生徒に対し、
あくまでも他人事である男子生徒は「出産」に実感を持ちたく無いが故に、積極的に発見をしようとしなかったとしています。

このような自分が知りたくないことを自主的に情報を遮断すること。それを表題にあるバカの壁であるとし、人間の行動は、出力をyとすると、入力 = xに対し、脳内でaという係数をかけて、アウトプットしているとし「y = ax」という一次方程式モデルを提唱しています。このaというのが、個人個人の「現実(私は「入力した情報」と解釈しますが)の重み」ともいうべき物で、出産ビデオを見せた男子生徒というのは、出産は現実の話じゃないので、このaが0かそれにきわめて近い状態になっていたから、あのような反応を見せたという事なのです。

話を戻しますが、結局の所「ガンダムのアンチ」は曲がりなりとも、aはマイナスかも知れないけど、作品の中身に対して一応のアウトプットしている。一方の「けいおん!のアンチ」はaに対して0をかけているということです。結局の所、『けいおん!』にいるのは「アンチ」ではなく、作品を理解しない大勢の傍観者なのです。かつて手塚治虫が当時流行していたスポ根漫画の面白さを理解できず、アシスタントに対し「なんで面白いのか教えて欲しい」と涙目で懇願していた光景が日本中にあちこちに広がっているということなのです。

『けいおん!』は斬新か?

今スポ根と書きましたが、それではけいおん!は斬新な世界観なのかということです。よく『けいおん!』について言われるのは、スタッフが女性ばかりなので、女性的の感性で描かれた世界であると言うことです。しかし、今の萌え漫画業界には、蒼樹うめ、なもり、黒田bb、きゆづきさとこ、荒井チェリーなど萌え4コマや日常系作家には女性作家が多く進出していますが、冒頭のロジックからすれば、彼女らは女性的感性を存分に発揮されて萌え漫画を描いておられることになります。

「原作:男性・アニメ:女性のコンビ」が良いんだと仰るかも知れませんが、ゆるゆりやひだまりスケッチのメインスタッフは男性ですし、けいおんで一番評判の良い本を書いていたのは花田十輝という男性の脚本家だったし、あの作品でおそらく一番好評だったポイントは「あずにゃん」というニックネームだったり、放課後ティータイムのキャラクターの設定と思うのですが、それはアニメオリジナルじゃなく紛れもなく、かきふらいという男性の視点で描かれた物です。では、この錯誤ってどこから生まれているのでしょうか?

わたしは萌えアニメというのは、入浴シーンだのおっぱいだの太ももだのを入れてDVDの売りが「乳首解禁!」という「女性を性の対象とみてとらえる作品」と、パンチラすら無くまるで「動物を愛でるかのような感覚でかわいらしさを描く作品」の2つの流れがあると思ってます。そして、この2つがユーザーや作り手ですらも混同しておなじ「萌えアニメだ」という感覚で見ていて、前者を男性的、後者を女性的と決めつけているのではないでしょうか?

しかし、歌舞伎役者の女形やニューハーフが時に女性よりも女性らしく見えることがあるように、「女性的」な物を見せるためのは、女性ではなく男性である場合もあるのでは無いでしょうか?

『けいおん!』は突出した名作か?

では、『けいおん!』は突出した名作なのか?ということになります。まず、原作を見ても芳文社の萌え4コマ群の典型、あるいは中堅の作品に過ぎず、それから傑出したオンリーワンの作品ではないのは容易に見て取れます。もちろん凡作でも『美少女戦士セーラームーン』のようにアニメのハイクオリティぶりから、原作なのにコミカライズ扱いされた作品も存在します。

まず、本作のアニメ版の短所は、普通なら設定を考えるに当たり物語を進めるために便宜的にある設定(裏設定)があったり、全体の構想があるはずなのですが、けいおんは恐らく「描かれている」ところが設定や構想のほぼ全てで、良く言われる家族のことなどのように、「描かれていない所」を推測し出すととたんにおかしな事になってくるのです。欠点はまだあります。基本的にスタッフはキャラクターに対して親バカなので、キャラを突き放すことが出来ないのです。この2つは原作から踏襲していることだと思うのですが、そうすることでどこまでもキャラにとって甘い世界になったり、例えばあれほどウェットに描いていた卒業描写が突然(原作との摺り合せとは言え)、同じ大学に進学という拍子抜けの描写になったりするのです(ってこの2つはリンクしてますね)

アニメ版の長所としてもっとも傑出した物として挙げられるのは、一話完結からシリーズ物に事実上改変するに当たり、主人公に「目標探し」という目的を与えたことにあります。また、音楽もさることながらディテールに異様な拘りを持つアニメの高水準さは傑出しており、他社がアニメのクオリティをキャッチアップした現在においても追いついていない物があります。しかし、京アニの作品ではこのようなディテールの拘りというのは何も初めてのことではなく、『Air』の頃からそのような「芸術」とも言える動きを見せており、もはや「京アニなら当たり前」の領域に達していたことも事実です。

ところで「けいおん!」でビジュアルの部分を除いて突出した部分ー例えば印象に残った台詞(イカ娘で言うところの○○ゲソ)だとか、歌(セーラームーンで言うところのムーンライト伝説)をみなさんは思い浮かべます?確かに全体的なクオリティは80点でまとまっていて減点対象はあまりないけど、突出した物もあんまり無いという印象を私は抱いてまして、実際グッズの売上は凄いと言うけど、二次創作とかパロディは人気の割に見たことがないような気がするのです。

かつて、トヨタ自動車がカローラを開発するときに「80点+α主義」という物を提唱していたことがあります。

『幅広くファミリーカーとして使っていただくためには、性能、居住性、フィーリングなどで満点に近い評価であっても、価格や維持費の面でお客様の手が届かないものでは大衆車としては失格である。また、安くするために品質を落としてはならず、あらゆる面で80点以上の合格点でなければならない。その一方で、全てが80点では魅力のないクルマになってしまう。これだけはほかには負けないというものがいくつかあって、初めてお客様の心をとらえることができる』

…(カローラは)お客様のニーズを先取りした「スポーティー性」をカローラの「+α」とし、コラムシフトの3段トランスミッションが一般的な時代に、あえてフロアチェンジの4段トランスミッションを採用。スポーティーで軽快な感じをもたせるために、丸型メーターやセミファストバックの斬新なスタイルにしました。
http://www.toyota.co.jp/jpn/auto/heritage/corolla/origin/episode.html

この「80点主義+α」を体現したアニメだと思うのですが、仮にビジュアルの部分だけが「+α」なら『らき☆すた』や『日常』も、『けいおん!』や『涼宮ハルヒ』と同程度のヒットを飛ばしていないとおかしな話になるのです。つまり本作には更にもう一つ別の「+α」が存在するはずなのです。

+αの意味

けいおんという作品がヒットするもう一つの「+α」とは何なのか。それを解き明かすヒントはアニメの歴史やジャンルをひもとく必要があります。

そもそも日常系っていうのは巷でいわれているほど新しく、斬新なジャンルではありません。日常系の元祖といわれるのは『あずまんが大王』ですが、連載期間は99年〜02年ですので、もう10年以上前の古典ともいうべき作品です。この作品は、恋愛ADVの名作『To Heart』の影響が思いっきり見て受け取れるのですが、高橋龍也というTHの脚本を書いた人がこのようなことも言ってます。

――あと、これは唐突ですけど、『あずまんが大王』って『To Heart』に似てませんか?
高橋:そうですね。方法論は似ていると思います。四コマってシチュエーションだけを描いているわけですよね。『To Heart』は基本的にシチュエーションの連続ですから。だから『To Heart』をやるにあたっては四コマが一番良かったと思います。アンソロジーの四コマはどれも良い感じですし。『あずまんが大王』はちょっと悔しい(笑)。あれは『To Heart』でやりたかったことでもありますから。
http://www.tinami.com/x/interview/04/page6.html

とまあ、やりたかったことはあずまんがだったとまで言い切ってるわけです。恋愛が中核の作品なのに、異性が原則排除された作品に「アイディアをとられて悔しい」といわれる。これは一体どういうことなのでしょうか?

――話を『To Heart』に戻しますと、高橋さんがつくる作品って微妙に恋愛ゲームじゃないと以前から感じていたんです。とりわけ『To Heart』は恋愛ゲームの王道路線を踏襲したものだと言われますが、それとも微妙に違うものだと。
高橋:恋愛っていうのは、実は書いてもあんまりおもしろくないんですよ。若い恋愛を書けば、男の立場から言うとイコール性欲。理由なんてないんです。それだけで終わっちゃうんで、語るドラマもなにもないんです。…だから『To Heart』でやりたかったのは「一緒にいて楽しい」ということなんです。性欲を抜きにしても、一緒にいて楽しい女の子を。

男の立場からいえば恋愛は性欲。だからこそ、セックスなしに一緒に居て楽しいことを追求する。これが、私が言ってた「動物を愛でるかのような感覚でかわいらしさを描く作品」ということにも繋がっているんじゃないでしょうか?
さて、このように今の日常系にも繋がる要素を多く内包した『To Heart』や『あずまんが大王』ですが、03〜06年頃までこのようなTH・あずまんが路線(とりあえず面倒くさいので日常・ラブコメ系と称しましょう)を継承する作品というのはなかなか現れない潜伏期となり、異能バトルの全盛の時代が来るのです。

この時代を代表するアニメと言えば、まずはなんと言っても『コードギアス反逆のルルーシュ』と『ガンダムSEED』シリーズを抜きには語れませんが、『ギアス』はもちろんですが『SEED』は異能バトルの要素が入ってる作品(完全に異能系バトルではない点に注意)でもあるのです。

さらには、当時は萌え作品でも『灼眼のシャナ』『ローゼンメイデン』『舞-HiME』『Fate/stay night』など異能系バトルはまさに花盛りで、とりわけ『仮面ライダー龍騎』に影響されたのかバトルロワイヤル物だとかループ物がきわめて多かった時期でもありました。(ひぐらしのなく頃にもBRじゃないけど殺しあいがテーマでしたね)

またセカイ系の作品も相変わらず元気で、『ラーゼフォン』(02年)『交響詩篇エウレカセブン』(05年)『ほしのこえ』(02年)『ノエイン もうひとりの君へ』(03年)などの傑作も生まれたのもこの頃でした。一方で、この間にTH・あずまんが系統の作品がヒットしたのは『D.C』(03年)『マリア様がみてる』『スクールランブル』(04年)『ARIA』(05年)など散発的なヒットが目立つ程度で、異能バトル物やセカイ系の補佐的な役目という印象はどうしてもぬぐえないのです。

さて、2006年になると、ご存じ『涼宮ハルヒの憂鬱』が登場しますが、この作品の特徴は、長編でシリアスな世界の謎を、短編でハルヒの気まぐれが引き起こすドタバタを描く、「セカイ系と日常・ラブコメ系の融合」であると言えるでしょう。この時期から日常・ラブコメ系のヒット作が増え始め、『ゼロの使い魔』(06年)『みなみけ』『ハヤテのごとく!』『ひだまりスケッチ』『らき☆すた』(いずれも07年)『かんなぎ』『とらドラ!』(08年)と今でも良く聞く作品が登場し始め、現在ではセカイ系らしい作品は、まどかくらいだし、異能バトルらしい作品だって『ギルティクラウン』しか思いつかなくなっています。更に京アニ作品によって、現実にある街をアニメにするという試みと、実際にロケに行った地方を観光に訪れるという趣味がクローズアップされたことにより、舞台がファンタジー世界やSF世界、あるいは架空の世界から現代の実在する街へとシフトする傾向が急激に起こったのです。

つまり、けいおん!がアニメ化された時期というのは日本のアニメ界がセカイ系や異能バトルモノから日常・ラブコメ系や現代劇に移行する時期においてなされた物で有り、「2009年に京都アニメーションがアニメにした日常系」という事実やタイミングそのものが、あのアニメにおいてもっとも価値のある「+α」ことなのだと思います。

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